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摂取した乳酸菌は腸内で増殖するのか

摂取した乳酸菌が腸内で増殖することはない

腸内環境を整えてくれる乳酸菌はヨーグルトや漬物から摂れる善玉菌(※1)です。胃酸などの消化液に耐性があり、生きて腸まで届く乳酸菌もあります。

では生きた乳酸菌が腸に届いたとして、増殖することはあるのでしょうか? その答えとして腸内細菌研究の権威である東京大学名誉教授の光岡知足氏は、「生きた菌が腸まで届いて、そこで増殖するということは普通はない」と述べています。(参考元1)
これは実験でも証明されています。乳酸菌が腸内で活動できる期間は短くて数時間から2日、長くて90日程度であり、腸内に定着できないことが分かっています。つまり乳酸菌は増殖を始める前に体外へと排出されてしまうのです。

(※1)乳酸菌やビフィズス菌など体に有用な働きをする細菌の総称。

関連記事:乳酸菌と胃酸の関係

腸内で増えることも定着することもできない

腸内には100兆個以上の細菌が生息している

私たちの腸内には少なく見積もって100兆個の細菌が生息しています。これらは種類ごとにまとまり腸内フローラを形成しています。
健康な人の腸内ではこのうち約2割が善玉菌で約1割が悪玉菌(※2)、残りは日和見菌(※3)が占めています。腸内では善玉菌、悪玉菌、日和見菌がお互いにバランスを取ることで健康を保っています。

(※2)ウェルシュ菌などの体に有害な働きをする細菌の総称。
(※3)善玉菌と悪玉菌どちらか優勢なほうに味方する細菌の総称。

もともと生息している常在菌と同じ働きはできない

私たちが一度の食事で摂れる生きた乳酸菌の数はどんなに多くても数百億個程度です。ヨーグルトは1mlに1000万個以上の乳酸菌を含めることが法令で定められていますから、100mlでは10億個の乳酸菌を摂ることができます。

乳酸菌を豊富に含んでいるキムチでも1gあたり数億個、最も効率的に乳酸菌を摂れるサプリメントでも数百億個です。100兆個の細菌が生息しているところにこの程度の数の乳酸菌が加わっても、もともと腸内に生息している常在菌と同じ働きをすることはできないのです。

腸内で増えることなく体外に排出される

巷では「生きて届いた乳酸菌は腸内で増える」「乳酸菌は生きていないと効果がない」といった話をよく耳にします。しかし、光岡氏がラクトバチルス属の乳酸菌で調べたところ、いくら摂っても増殖しないことが分かっています。

ラクトバチルス属の乳酸菌は胃酸に耐性があり、生きて腸を通過して便から検出されます。ところが摂るのを止めると間もなく検出されなくなることが確認されています。これは乳酸菌が腸内に定着できないことを示しています。

研究を続けていくなかで分かってきたことです。実際に乳酸菌が腸内に活動できる期間には限りがあり、短くて数時間から2日、長く活動することが認められている乳酸菌でも90日程度で便と一緒に体外に排出されてしまいます。

乳酸菌を摂る意味

では乳酸菌を摂っても効果は得られないのでしょうか? そんなことはありません。

生きた乳酸菌は腸内にもともと生息している善玉菌を増やす

乳酸菌を摂ると腸内にもともと生息しているビフィズス菌などの善玉菌を増やすことができます。そのメカニズムははっきりとは分かっていません。

ですが生きた乳酸菌が腸に届くと、糖を分解して乳酸や酢酸などの有機酸を生成します。すると腸内環境が善玉菌の増殖に適した弱酸性に保たれるため、善玉菌の増殖が促されると考えられています。

さらに熱や酸で死滅した乳酸菌=死菌は、腸内にもともと生息していた善玉菌のエサとして利用されて増殖を促すと考えられています。善玉菌が増殖すると悪玉菌の活動が抑制されて良好な腸内環境を保てるようになります。

関連記事:善玉菌はどうやって増やす?

免疫細胞を活性化する

乳酸菌には免疫力を高める働きがあります。摂取した乳酸菌は小腸にある「パイエル板」(※4)というリンパの集まりに取り込まれます。するとマクロファージや樹状細胞といった免疫細胞にキャッチされて、その情報が他の免疫細胞に送られます。
それによって免疫反応が起こって抗体(※5)が作られます。つまり乳酸菌を摂ることで免疫細胞を活性化することができるのです。その結果として、風邪やインフルエンザなどの感染症やアレルギーの予防や症状の緩和に繋がります。

なおこの効果は死菌であっても変わらないことが示されています。つまり乳酸菌は死滅していても一定の効果が得られるのです。

(※4)小腸に存在する板状の組織。免疫システムの総司令部のような場所。
(※5)体内に侵入してきた病原体に対抗するために分泌される物質。

関連記事:殺菌された乳酸菌が持つ力とは

参考元1:「生きた菌が腸まで届くから健康になれるわけではないんです」(光岡知足インタビュー②) - Bio&Anthropos?知をたずさえ生命の海へ

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