アシドフィルス菌の特徴
アシドフィルス菌とは
正式名称はラクトバチルス・アシドフィルス菌、細長い形をしている乳酸桿菌の仲間です。人間の腸内、口腔、母乳などに生息しているヒト由来の乳酸菌です。
熱や酸に比較的強い性質を持ち、食べ物などから摂取しても生きた状態で腸に届けることができ、その生存率はおよそ70%と言われています。
このようなことからプロバイオティクスの乳酸菌(※1)として優れた効果が期待でき、昔からヨーグルトやサプリメントに使われてきました。
また増殖のときにビオチンを使わないという特徴があり、栄養バランスを維持するうえでもメリットがあります。
(※1)人の体に良い働きをもたらす細菌のこと
アシドフィルス菌の歴史
1900年にモローによって発見される
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アシドフィルス菌は、フランスのパストゥール研究所のティシエによって、ビフィズス菌が発見された1年後の1900年、オーストリア・グラーツ大学のE・モローによって乳児の腸内から発見されました。
腸内細菌の解明が進んでいなかった当時は、ビフィズス菌に次ぐ大きな発見であり、バチルス=桿菌、アシド=酸の、フィルス=好むという意味のアシドフィルス菌と命名しました。
さらにその後の研究で、乳児の腸内だけではなく、成人や動物の腸内、口腔内、膣内にも生息していることが明らかになります。
モローは、アシドフィルス菌などの腸内にもともと生息している常在菌が、外部から侵入してきたウイルスや細菌などの病原菌を防御する役割を果たしているのではないかと考えて研究を行います。
このモローの考えは、今日ではその仕組みが解明されている腸管免疫に当たります。
分類の変遷
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アシドフィルス菌が発見された当時、乳酸菌は形態や特徴によって菌の種類が決められていました。後に分子生物学の技術が進歩すると、菌の染色体DNAなどによって決定する分類手法が採用されます。
それによって当初はアシドフィルス菌に分類されていたラクトバチルス属の乳酸菌6種類の分類が見直されます。アシドフィルス菌はそのままに、ガセリ菌、アミロボラス菌など5種類がそれぞれ別の菌種として独立し、再分類されました。
日本での扱い
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日本でも、アシドフィルス菌は代表的な乳酸菌として早くからその存在が注目され、多くのヨーグルトに使われていました。
ところが、20世紀半ばまでは厚生省が定めた乳等省令によって、発酵乳と乳酸菌飲料の製造にはアシドフィルス菌とブルガリア菌を使うように義務付けられていたため、例えば1930年に代田稔博士が発見したシロタ株は、本来はカゼイ菌ですがアシドフィルス菌として使われていました。
これは当時の日本では腸内細菌の研究がほとんど手付かずな状態であったこと、大人の腸内に生息する善玉菌の中では、アシドフィルス菌が優勢であると思われていたことが影響しています。シロタ株をカゼイ菌と認めると法律違反になってしまうため、やむなくアシドフィルス菌と呼んでいたメーカー側の事情がありました。
その後「これは間違っている」という研究者の指摘によって、乳等省令が改正されます。特定の菌種を定めるのではなく、乳酸菌と酵母を使って作るものを発酵乳または乳酸菌飲料と定義することでこの問題は解決しました。
もちろんこの乳酸菌の中にはアシドフィルス菌、ビフィズス菌、カゼイ菌など全てが含まれています。1970年代に入ると、大人の腸内でもアシドフィルス菌ではなくビフィズス菌が優勢であり、乳酸桿菌そのものが人間の腸内では少数であることが明らかになります。
こうして人間の腸内に生息する善玉菌の代表は、アシドフィルス菌からビフィズス菌へと移りましたが、アシドフィルス菌はこれまで行われた多くの研究によって免疫賦活作用など新たな健康効果が発見されています。
アシドフィルス菌の効果
優れた整腸作用
動物性乳酸菌の中でも比較的酸に強いアシドフィルス菌は、胃酸や胆汁酸でもその多くが死滅することなく生きて腸まで届きます。
アシドフィルス菌は生きて腸に届くことで大量の乳酸を生成して、腸内環境を善玉菌の活動に適した弱酸性に変える働きがあります。
それによって善玉菌の増殖が促されることで、悪玉菌が抑制されて便秘や下痢、お腹の張りといった不調を解消する効果が期待できます。
免疫力を高める
私たちは外部から侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を免疫システムによって防御しています。その中でも腸は最大の免疫器官であり、体全体の約7割の免疫細胞が集中しています。
アシドフィルス菌が腸に届くことで免疫細胞が刺激されて活性化し免疫力が向上します。それによって風邪やインフルエンザなどの感染症、アレルギー疾患の予防や症状を軽減する効果が期待できます。
また一部の菌株では、Th1とTh2という二つの免疫細胞のバランスを調整することで、産生される抗体の量を調整し、花粉症やアトピー性皮膚炎の症状を改善する効果が認められています。
ほかにもウイルスに感染した細胞を殺菌し、腫瘍細胞を融解して除去するNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化する菌株も見つかっていて、優れた免疫賦活作用が期待されています。
ピロリ菌を抑制する
アシドフィルス菌は腸だけでなく胃の中でも働いて健康維持に貢献します。アシドフィルス菌の中には胃潰瘍の原因菌であるヘリコバクター・ピロリ菌を殺菌する強い作用を持つ菌株があります。
ヘリコバクター・ピロリ菌はウレアーゼという酵素を生成して、胃の粘膜の主成分である尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。しかもこのヘリコバクター・ピロリ菌はアンモニアの強アルカリ性によって守られるため悪循環に陥ってしまいます。
アシドフィルス菌はヘリコバクター・ピロリ菌を殺菌するとともに、抗炎症作用によって胃の粘膜を保護する働きがあり、胃潰瘍を予防する効果が期待できます。
アシドフィルス菌の種類
L-92株
アレルギー症状を抑制する
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カルピスが保有する乳酸菌の中から、アレルギー症状を抑制する効果が特に期待できる菌株として選び出されました。
アレルギー疾患は、免疫反応の異常によって、本来は無害である花粉やホコリなどを異物として認識し、ヘルパーT細胞がIgE抗体を大量に作るように生産工場であるB細胞に指令を出すことで引き起こされます。
そのためアレルギー症状を改善するためには、ヘルパーT細胞に働きかける必要があります。L-92株はヘルパーT細胞のTh1とTh2のバランスを整えることで抗体が大量に作られるのを抑制して、花粉症などのアレルギー症状を緩和する効果が認められています。
またL-92株は生きて腸まで届きますが、加熱殺菌しても同じ効果を得ることができます。【L-92株の効果を調べた試験】
80名のスギ花粉症患者を対象にした試験では、最初に花粉症曝露施設でスギ花粉に3時間曝露してもらいました。その後、20名ずつ4つのグループに分けてそのうち3つのグループに、L-92株を含むタブレット3種類(20mg、60mg、100mg)を8週間摂ってもらい、8週目に再び花粉の曝露を行いました。
その結果、L-92株を摂った3つのグループいずれも、自覚症状である「眼のかゆみ」「鼻のかゆみ」が緩和することが認められました。
アトピー性皮膚炎を改善する
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L-92株はアトピー性皮膚炎の症状を改善する効果も認められています。
【L-92株の効果を調べた試験】
1~12歳までの患者59名を対象に行った試験では、二つのグループに分けて一方のグループにはL-92株を含む粉末100mgを8週間摂ってもらいました。
また被験者は摂取開始前に1回、試験期間中に3回の合計4回、病院で皮膚症状の観察とステロイド軟膏の使用量を確認し、白血球の減少量を調べる目的で血液検査を行いました。
その結果、L-92株を摂ったグループでは皮膚症状・治療スコア(SMS)が大きく減少し、ほとんどの被験者で症状が緩和することが確認されました。この緩和効果は中等以上の症状で大きいことも確認されました。さらに成人のアトピー性皮膚炎でも同様の効果が得られることが認められています。18~54歳の患者24名にL-92株を含む食品を8週間摂ってもらったところ、摂取期間が長いほど皮膚炎症重症度(SCORAD)が低下することが確認されました。
ほかにも通年性アレルギー性鼻炎の症状改善、インフルエンザウイルスの感染を抑制する可能性があることが確認されています。
L-55株
生きて腸に届くプロバイオティクスの乳酸菌
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オハヨー乳業が乳幼児の腸内から分離した乳酸菌で、2000年に発見されました。ヒト由来の乳酸菌のため、胃液や腸液に対して強い耐性を持つのが特徴です。
人工胃液を使った耐久試験では100%が生存し、人工腸液による耐久試験でも菌の減少がほぼ認められませんでした。L-55株は生きて腸に届くプロバイオティクスの乳酸菌で、腸管上皮粘膜に付着することで長く留まることができます。
アレルギー反応を抑制する
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【L-55株の効果を調べた試験】
26名のスギ花粉症患者を対象にした試験では、L-55株を含むヨーグルトを花粉飛散時期を含めて13週間摂ってもらいました。
その結果、L-55株を含むヨーグルトを摂ることで総症状スコアと症状薬物スコアが、L-55株を含まないヨーグルトを摂ったグループよりも低い傾向にあることが確認されました。
このことからL-55株にはスギ花粉症の症状を緩和し、治療薬の併用によってさらに症状を軽減、または薬の量を減らす効果が期待できます。L-55株は、花粉症などのアレルギー反応を抑制する効果が認められています。そのうち花粉症の症状を抑制する効果はマウスと人を対象にした試験で認められています。
イソフラボンの吸収を高める
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ほかにもL-55株にはイソフラボンの吸収を高める効果があるという報告があります。イソフラボンは大豆などに多く含まれる成分で、女性ホルモンと同じ働きをすることで知られています。
このイソフラボンは、大きく分けて豆乳やきなこに多く含まれるグリコシド型と、納豆や味噌に多く含まれるアグリコン型があります。このうちより吸収に優れているのはアグリコン型です。
なおグリコシド型であっても、腸内細菌が生成する酵素によってアグリコン型に変換することができます。L-55株には多くの酵素を生成する働きがあり、他の乳酸菌よりもアグリコン型のイソフラボンを増やす効果が高いとされています。
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