乳酸菌で腸の粘膜を強化
病原体の侵入を防ぐ腸管粘膜バリア
異物の侵入を防ぐ粘膜
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私たちは食事と呼吸によって食べ物や空気だけでなく、ウイルスや細菌、アレルギー物質などさまざまな異物も一緒に取り込んでしまいます。
このような体に害を及ぼす異物の侵入を防いでいるのが粘膜です。
粘膜は皮膚と同じように空気に触れているため、病原体や毒素に常に晒されています。
そこで私たちの体はこのような脅威から身を守るシステムを備えています。
病原体の侵入を防ぐ腸管粘膜バリア
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その中でも、食べ物を消化吸収する腸の粘膜は、病原体やアレルギー物質の侵入を防ぐ最も重要な器官です。
腸の長さは7~9mにもなり、表面積は300~400m2あるとされています。
これはテニスコートのおよそ1.5倍、皮膚の200倍にあたります。
腸の粘膜には無数の絨毛がびっしりと生えていて、栄養を絡め取って吸収する役割を果たしています。
絨毛で吸収できない病原体などの異物は、腸管粘膜によって保護されている「腸管バリア」が体内に侵入するのを防いでいます。もしこの腸管バリアが働かなかったら、病原菌は腸から体内に容易に侵入できることになります。
腸管免疫の仕組み
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腸の粘膜にはムチンと呼ばれる粘膜を保護する物質や、細菌やウイルスと戦う抗菌ペプチドを含む分厚い粘液層が表面を覆っており、病原体や腸内の悪玉菌が容易に大腸組織に侵入できないようになっています。
また、小腸の粘膜にはリンパ組織があり、腸管免疫の司令塔の役割を果たす「パイエル板」のほか、免疫細胞であるリンパ球の多くが集中しています。
侵入してきた病原体などの異物は、パイエル板や、繊毛上にあるM細胞と呼ばれるウイルスや細菌を捕獲する組織に捕獲されます。それを樹状細胞が受け取って分解し、その情報はT細胞へ伝達されます。T細胞はB細胞に指令を出し、B細胞ではさらなる異物の侵入を防ぐ目的でIgA抗体が作られ、最終的には全身に情報が伝達される仕組みです。
これら腸を中心として構成される免疫系のことを「腸管免疫」と呼びます。
腸管バリアの破綻は潰瘍性大腸炎を引き起こす
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潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に潰瘍やただれが起こり、下痢や腹痛を繰り返す病気です。20~30代の若い人が発症しやすく、近年は患者数が増加傾向にあります。
潰瘍性大腸炎は厚生労働省が指定する難病で、治りにくく、良くなっても再発することが多い病気です。これまでその原因が充分に解明されていませんでしたが、近年の研究で腸管バリアの破綻が関係していることが分かっています。腸管バリア機能が低下しているマウスを使った実験では、粘膜への腸内細菌の侵入を観察したところ、腸管炎症が起こりやすくなっていることが確認されました。
このように粘膜の防御機能の破綻によって免疫細胞がダメージを受けると、病原菌が体の中に容易に侵入するようになります。病原菌に侵入されると粘膜層では白血球などによって炎症反応が引き起こされ、侵入してきた物質を除去しようとします。しかし、炎症によって粘膜細胞が破壊されるため、さらに病原菌が侵入しやすくなる悪循環に陥ります。炎症を防ぐためには腸管粘膜を強化して、バリア機能を回復させる必要があるのです。
腸内フローラと腸のバリア機能の関係
腸のバリア機能は腸内細菌と腸粘膜の共同作業
病原体の多くは腸から体内に侵入します。そのため腸にはたくさんの細菌が生息し、病原体の侵入を防ぐ役割を果たしています。
私たちの腸には500種類以上、100~1000兆個もの腸内細菌が種類ごとにまとまり、腸内フローラを形成していて、それぞれバランスを取りながら腸内環境を維持しています。
そして腸内細菌は腸の免疫細胞を活性化する働きがあり、腸の粘膜と腸内細菌の共同作業によって、免疫システムが維持されているのです。
良好な腸内フローラが腸管バリア機能の維持につながる
しかし、腸内細菌は長く生きることができないため、加齢やストレスなどによって腸内環境が悪化すると腸内細菌が減ってしまい、腸管バリアの機能を維持することができなくなります。
腸管バリアが破綻すると、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を発症しやすくなります。
そこで乳酸菌やビフィズス菌などの腸内環境を整えてくれる善玉菌を増やす必要があります。
一方で悪玉菌も腸管免疫系の維持に貢献していて、全く不要な菌ではありません。抗生物質などで悪玉菌を必要以上に殺してしまうのは逆効果です。
とはいえ悪玉菌が増えすぎると便秘などの悪影響を及ぼします。乳酸菌やビフィズス菌を積極的に摂ることで、腸内の善玉菌を活性化し腸内フローラを良好に保ち、腸内細菌を減らさないようにしましょう。
乳酸菌で腸粘膜を強化
現代人は腸の機能が低下しやすい
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生きた乳酸菌を腸まで届けることで腸内細菌が活性化され、腸の粘膜を保護することができます。さらに一部の乳酸菌では腸管バリア機能の低下を防ぐ効果が認められています。
現代人の腸は、加齢による機能低下や、肉食に偏った食生活、過労や不規則な生活によるストレスによって大きな負担をかけています。
この負担によって腸の機能が低下すると、バリア機能を維持するために粘膜で分泌されるムチンや抗菌ペプチドなどの成分が減少し、腸管バリアの働きが低下してしまいます。フランスにあるパスツール研究所の主任研究員ジェラール・エベール博士は、「腸内フローラのバランスを保つことが健康のポイントだが、加齢によって腸内フローラのバランスが崩れ、腸の免疫システムが損なわれる恐れがある」と言います。
抗菌ペプチドを増やすLB81乳酸菌
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明治乳業が保有するLB81乳酸菌には、抗菌ペプチドを増やすことで腸管バリア機能を高めることが確認されています。
【LB81乳酸菌を使った実験】
明治とパスツール研究所は、2011年から行っている共同研究で、老齢マウスにLB81乳酸菌を含むヨーグルトを与える試験を行ったところ、若いマウスに見られる腸内フローラのバランスに近づくことが分かりました。
また大腸炎を発症させたマウスにLB81乳酸菌を含むヨーグルトを摂らせたところ、腸の炎症が抑えられることが報告されています。明治の乳酸菌研究部長を務める浅見幸夫氏は、「LB81乳酸菌には腸管内の抗菌ペプチドの発現を向上させる働きがあり、腸管バリア機能の向上に役立つ」と指摘します。
このように一部の乳酸菌には腸粘膜の細胞に働きかけることで、バリア機能を維持する効果があります。乳酸菌を摂ることで腸の健康を維持して、感染症や潰瘍性大腸炎、さらにはアレルギー症状を抑制する効果が期待されています。
腸管バリア機能を高める乳酸菌の種類
以下の乳酸菌は腸粘膜を強化することで腸管バリア機能を高める効果が認められています。
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・LB81乳酸菌
ヨーグルトの種菌として使われているブルガリア菌2038株とサーモフィラス菌1131株を組み合わせた明治乳業が保有する乳酸菌です。
LB81乳酸菌は、腸管バリア機能を高める「抗菌ペプチド」という物質の発現を高めることがマウスを使った試験で確認されています。・SBL88乳酸菌
正式名称はラクトバチルス・ブレビス・SBC8803株、サッポロビールが保有する乳酸菌です。ビールの品質管理や新商品開発用に保管していた約700株の中から1995年に発見しました。
大麦から抽出した植物性乳酸菌で、酸やアルコールに強い性質を持ち、生きて腸まで届くプロバイオティクスの乳酸菌です。SBL88乳酸菌には腸管バリア機能を増強し、抗炎症作用があり腸管の炎症を改善することが動物実験によって確認されています。・LKM512株
1997年に発酵乳から見つかったビフィズス菌です。酸に弱く胃酸で死滅してしまうことが多いビフィズス菌ですが、LKM512株は他のビフィズス菌と比べて生命力が強く、胃酸に負けることなくその多くが生きて腸まで届いて大腸で増殖します。
さらに腸内では、ポリアミンと呼ばれるアミノ酸の一種のアルギニンとオルニチンから合成される物質を増やす働きがあります。
このポリアミンは、腸管粘膜が持つ粘液層から、有害物質の侵入を防ぐIgA抗体の分泌を促す働きがあり、その結果として腸管バリア機能を高めることができます。
それによって、病原体やアレルギー物質が体内に侵入するのを防ぎ、腸の炎症やアレルギーの発症リスクを下げる効果が期待できます。・シロタ株
正式名称はラクトバチルス・カゼイ・シロタ株、後のヤクルト創始者である代田稔博士が1930年に強化培養に成功した乳酸菌です。胃酸や胆汁に強く生きて腸まで届き、善玉菌を3倍に増やし、悪玉菌を1/5に減らす効果が認められています。2型糖尿病は腸管バリア機能の低下によって腸内細菌が血液中に流出して、慢性炎症が引き起こされることが分かっています。
そこで乳酸菌によって腸内フローラを改善することで、腸管バリア機能を強化し、血液中への細菌流出を抑えられないかと考え、2型糖尿病患者70名を2つのグループに分けて、一方のグループにはシロタ株を含む飲料を16週間摂ってもらい経過観察を行いました。
その結果、シロタ株を摂っていないグループでは血液1mlあたり6個の細菌が検出されたのに対して、シロタ株を含む飲料を摂取したグループでは1.8個と、血液中の総菌数が低下することが確認されました。
シロタ株を摂ることで腸管表面の細胞間を接着強化する作用があることが分かり、腸管バリア機能が強化されることで血中への腸内細菌流出を抑制しているものと考えられます。・BB536株
森永乳業が1969年に健康な乳児から発見したビフィズス菌です。人に適した菌とされ、他のビフィズス菌とは違って酸や酸素に強い性質を持ち、生きて腸まで届いて長く活動します。
BB536株は大腸の粘膜にある細胞を保護することで病原体などから腸を守る働きがあり、病原性大腸菌O-157の感染を予防し、潰瘍性大腸炎の症状を緩和します。
軽症から中等症状の潰瘍性大腸炎患者14名を対象に行った試験では、治療薬とともにBB536株を1日2000~3000億個、24週間摂ってもらいました。
その結果、14名中12名では症状のスコアが下がり、そのうち10名は症状が軽減されることが確認されました。
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