善玉菌はどうやって増やす?
善玉菌2割を維持しよう
乳酸菌を摂ることで腸内環境の悪化を防ぐ
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いま巷では菌活が流行しています。体に有用な善玉菌を積極的に摂って健康維持に繋げようという考え方ですが、実は20世紀初頭に同じことを提唱した科学者がいました。
それは「ヨーグルト不老長寿説」で知られるロシアの微生物学者イリヤ・メチニコフです。腸内細菌と食べ物の関係について研究していたメチニコフは、有害物質を作り出す悪玉菌はアルカリ性を好むこと、腸内を弱酸性に保つことで悪玉菌を抑制できることを知り、弱酸性に保つにはヨーグルトに含まれる乳酸菌が有効であると考えました。
腸内細菌の働きについて解明される以前から、乳酸菌を摂ることで腸内環境が改善することを提唱したメチニコフは先見の明があったと言えます。
ところが現代人の腸内環境は悪化しています。これは腸内の善玉菌の活動が弱く悪玉菌が増殖しているためです。
腸内細菌の推移
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私たちの腸内に生息する細菌は胎児の段階では無菌状態です。それが出産のときに産道を通ることで口などから母親が持つ腸内細菌が入り込み、その人それぞれの腸内フローラが形成されていきます。
生後3日後あたりからはビフィズス菌が増殖をはじめ、授乳開始から1週間ほど経つと全体の95%をビフィズス菌が占めるようになります。離乳が始まるとバクテロイデスなどの日和見菌が増え始め、それによってビフィズス菌は減少し全体の20%前後に落ち着きます。
この2割を維持していれば体に有害な悪玉菌の増殖を抑制し、腸内フローラを良好な状態に保つことができます。しかし、加齢の影響で青年期を過ぎるとビフィズス菌は減少し、代わりに大腸菌(有毒株)やウェルシュ菌といった悪玉菌が増殖していきます。
善玉菌2割を維持するために必要なこと
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2割のビフィズス菌を保つために食事を工夫して増殖を促す必要があります。ところが日本では昭和の中頃から食事の欧米化が進み、肉の摂取量が増えているのに対して食物繊維(腸内環境を整える)の摂取量が不足しています。
肉食に偏った食生活は悪玉菌の増殖に繋がり腸内環境を悪化させてしまいます。また過労や睡眠不足などで強いストレスを感じると、腸内環境が悪化して善玉菌を減らし悪玉菌の増殖に繋がります。ちなみに人間の腸内にはビフィズス菌のほかに乳酸菌も善玉菌として活動していますが、善玉菌の95%以上はビフィズス菌が占めています。
もちろん乳酸菌もビフィズス菌と同じ働きをしますが、腸内の善玉菌で圧倒的多数を占めるビフィズス菌を全体の2割維持することがとても大切です。
乳酸菌やビフィズス菌が腸内で直接増えるわけではない
多くの人は生きた乳酸菌やビフィズス菌が腸に届くことで自ら増殖してくれると誤解していますが、実はそう簡単な話ではありません。
腸内細菌研究の第一人者である東京大学の光岡知足名誉教授は「生きた菌が腸まで届いて、そこで増殖するということは普通はない」「それは実験でも検証している」と言います。
これは生きた菌が届いても腸を通過して便として排出されてしまうためです。ほとんどの乳酸菌やビフィズス菌は生きて腸まで届いても、腸内にもともと住んでいた常在菌に勝つことができないのです。
そのため腸内に定着することができず、多くは数時間から数日程度で体外に排出されてしまいます。このような短い時間では増殖は困難です。
もともと持っている善玉菌を増やそう
食べ物などから菌を補っても腸内で直接増えないのであるなら、腸内にもともと生息している善玉菌を活性化して増殖を促す必要があります。乳酸菌やビフィズス菌を摂ることで腸内にもともと生息している善玉菌の増殖を促すことができます。
生きた菌の働き
生きた菌が作り出す有機酸によって善玉菌が活性化する
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生きた乳酸菌とビフィズス菌には優れた整腸作用が期待できます。
その理由は菌の代謝物にあります。腸に届いた乳酸菌とビフィズス菌は糖を分解して、乳酸や酢酸といった有機酸を大量に生成します。それによって腸内環境を悪玉菌が好むアルカリ性から善玉菌の活動に適した弱酸性に変えてくれます。
腸内環境が弱酸性に変わると善玉菌が活性化して増殖が促されて、その結果として悪玉菌が抑制されます。つまり生きた菌を腸に届けることで腸内フローラを改善することができるのです。また、乳酸菌は通性嫌気性菌で、酸素があってもなくても生きることができますが、やや酸素の薄い環境を好むため小腸で活動します。一方のビフィズス菌は偏性嫌気性菌で、酸素のない環境で生きるため、口から遠く酸素がほとんど届かない大腸で活動します。
乳酸菌とビフィズス菌を両方摂ることで小腸と大腸どちらも良好な環境に保つことができます。
生きた菌を腸に届けるなら酸に強い菌が良い
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ところが動物の乳や体内に生息する動物性乳酸菌は強い酸で死滅してしまいます。せっかく生きた菌を摂っても、その大半は胃酸や胆汁酸を生きて通過することができません。
もちろん全ての菌が死滅するわけではありませんが、生きて腸まで届く菌は少数に留まります。そこでキムチやぬか漬けに含まれる植物性乳酸菌がおすすめです。
栄養に乏しく酸や塩分のある厳しい環境で生き抜いてきた植物性乳酸菌は強い生命力を備えています。酸に強い性質を持ち、動物性乳酸菌と比べて胃酸や胆汁酸で死滅することなく生きて腸まで届きます。しかし、大腸で活動するのはビフィズス菌です。動物性乳酸菌に分類されるビフィズス菌の多くは酸に弱い性質を持ちますが、近年では強化培養などによって消化液に対して強い耐性を持つ菌も発見されています。
ビフィズス菌の中で酸に強く生きて腸まで届く菌としては、Bb-12株、BB536株、BE80株などがあります。
死滅した菌の働き
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胃酸や胆汁酸で死滅してしまった菌には何の効果も期待できないのかと言うとそうではありません。近年の研究では死滅した乳酸菌やビフィズス菌にも、一定の整腸作用と免疫賦活作用があることが分かっています。
メチニコフもおよそ100年前に出版した本の中で、加熱殺菌したブルガリア菌を含むエサをハツカネズミに与えたところ、生きた菌とほぼ同じように生育したと書いています。ヨーグルト研究の第一人者が100年も前に「死滅した菌にも効果がある」ことを知っていたのです。では死滅した菌は腸内でどのような働きをするのでしょうか? どんなに優れた働きを持つ善玉菌であってもエネルギー源がないと活動することができません。死滅した菌の死骸は腸内に生息する善玉菌のエサとなることで腸内環境の維持に貢献します。
エネルギー源となるエサを供給することで、腸内にもともと住んでいる乳酸菌やビフィズス菌の増殖を促すことができます。
ヨーグルトや乳酸菌飲料だけに偏らないほうがよい
大量の菌をヨーグルトのみから摂るのは困難
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乳酸菌と聞くと真っ先にヨーグルトを思い浮かべがちですが、いくら体に良い菌を含んでいてもヨーグルトだけに偏るのは止めたほうが良いでしょう。
ヨーグルトには200mlで20億個程度の乳酸菌が含まれています。多いように感じるかもしれませんが、乳酸菌飲料や他の発酵食品と比べると1mlあたりに含まれる乳酸菌の数が少なめです。そのためしっかりとした効果を得ようとしたら大量に食べる必要があります。菌の数については一概にどれくらい摂れば良いとは言えませんが、最近の研究では1日に2兆個の乳酸菌を摂ると潰瘍性大腸炎を改善できることが分かっています。
これだけの数の菌をヨーグルトだけで摂ろうとしたら、毎日バケツ一杯分以上を食べなければいけません。メチニコフはおよそ100年前に1日に300~500mlの摂取を勧めていますが、この量のヨーグルトを毎日食べるのは少し大変です。
栄養バランスが偏る恐れがある
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健康を維持するためには栄養バランスにも気を配らないといけません。ヨーグルトの多くは砂糖が加えられています。
ヨーグルトよりも多くの砂糖が加えられているのが乳酸菌飲料です。乳酸菌飲料は1mlあたり1000万個以上の乳酸菌が含まれているため、ヨーグルトよりも多くの菌を摂ることができます。
牛乳や清涼飲料代わりに飲むだけで手軽に乳酸菌を摂ることができる乳酸菌飲料は便利ですが、万人受けするために甘くしたものが多いため、摂り過ぎには注意が必要です。
無糖のヨーグルトであれば毎日食べても問題ありません。朝食のメニューに加えたり、食後のデザートとして食べることで腸の健康を保つことができます。しかし、ヨーグルトはたんぱく質と脂質を多く含んでいるため、これだけではどうしても栄養が偏りがちです。糖分の摂り過ぎは高血糖に繋がりますし、たんぱく質や脂質を摂り過ぎると肥満や動脈硬化に繋がってしまいます。
腸内の善玉菌を増やすために栄養が偏って健康を害してしまっては本末転倒です。
乳酸菌は他の食品やサプリメントから幅広く摂ろう
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乳酸菌はヨーグルトに偏ることなく、ぬか漬けやキムチなどの漬物類、味噌、甘酒、サプリメントなどから幅広く摂ることが大切です。その中でも一度に大量の乳酸菌を摂ることができるのがサプリメントです。最近は乳酸菌を大量に配合したサプリメントが普及しています。
製造段階で加熱殺菌処理した死菌を採用したサプリメントは、高密度に圧縮することができ大量の菌を配合できるのが魅力です。1粒で数百億から数千億個もの乳酸菌を摂ることができるサプリメントを上手に活用しましょう。
いろいろな種類の善玉菌を摂ることが大切
善玉菌は乳酸菌とビフィズス菌だけではありません。酵母菌や麹菌、納豆菌も体に有用な善玉菌です。腸内の善玉菌を増やすためにはこれらの善玉菌を幅広く摂りたいところです。
そこでおすすめしたいのがぬか漬けや沢庵といった漬物類、味噌や醤油、納豆などを毎日の食生活に取り入れる方法です。
日本は発酵大国であり古くからさまざまな発酵食品が作られてきました。漬物は乳酸菌と酵母菌で発酵させています。味噌と醤油は麹菌、乳酸菌、酵母菌が発酵のリレーを繋ぐことで作られます。酢は酢酸菌によって発酵します。
ところが昭和の中頃から急速に進んだ食事の欧米化によって、いま日本では味噌汁や漬物といった伝統的な和食を摂る機会と品数が減っています。
朝食はパン派という方もご飯に変えて味噌汁と漬物をつけましょう。納豆を発酵させている納豆菌は腸内の善玉菌を増やす働きがあるため、乳酸菌と相性が良く一緒に摂ると効果的です。
ただし、味噌や醤油は品質を安定させる目的で製造段階で火入れをしています。乳酸菌は死滅していますがちゃんと含まれていますので安心してください。生きた菌にこだわる方は加熱処理しない生味噌、生醤油がおすすめです。
善玉菌を増やす食物繊維とオリゴ糖を積極的に摂ろう
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腸内の善玉菌が活発に活動するためにはエネルギー源となるエサが必要と先述しました。その働きをするのが食物繊維とオリゴ糖です。
光岡氏は「食物繊維を取ると乳酸菌が増え、ビフィズス菌はオリゴ糖を餌とする」と言います。このように腸内に住む善玉菌の増殖を促すことで、腸内フローラに良い影響を与える栄養成分をプレバイオティクスと呼びます。食物繊維には水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。このうち善玉菌のエサとなるのは水溶性食物繊維で、海藻類、納豆、ごぼう、レモン、オクラ、いんげん豆、切干し大根などに多く含まれています。
オリゴ糖はバナナ、ハチミツ、ごぼう、たまねぎ、アスパラガス、豆類などに多く含まれていますが、オリゴ糖由来の甘味料から手軽に摂ることができます。
オリゴ糖は胃で分解されない難消化性のため、摂れば摂るほど腸に届けることができます。また糖分が体内に吸収されない体に良い甘味料です。食物繊維とオリゴ糖をたくさん摂るためには、野菜や果物をたくさん食べる必要があります。肉類に含まれるたんぱく質や脂質は悪玉菌のエサとなり増殖に繋がりますから、肉食中心の食生活から野菜と穀物中心の食生活に変えていきましょう。
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