日本の調味料、味噌や醤油には植物性乳酸菌
日本の調味料に含まれる植物性乳酸菌
乳酸菌と言うとヨーグルトなど乳製品に含まれている菌をイメージしますが、実は植物、動物や人間の体内、空気中など自然界に広く存在している微生物です。
ヨーグルトやチーズなどの乳製品には動物性乳酸菌が生息していますが、野菜や穀物といった植物や発酵食品には植物性乳酸菌が生息しています。
栄養に乏しく、温度変化や強い塩分や酸にも晒され、他の微生物とも共存しなければならない厳しい環境で生きる植物性乳酸菌は生命力の強さが特徴です。
そんな乳酸菌はその存在が科学的に証明されるずっと昔から様々な発酵食品作りに活用されてきました。ヨーグルトやチーズなどの乳製品だけではありません。
日本の伝統的な調味料である味噌や醤油もその一つで、乳酸発酵によってpHを下げることで保存性か高まり、酵母や麹菌などの他の微生物と共生することであの独特の味と風味が生まれます。
味噌と乳酸菌の関係
味噌は大豆、米、麦などに塩と麹を加えて発酵させて作りますが、その醸造において乳酸菌が重要な役割を果たします。
麹菌や酵母菌が原料を分解して糖を作り出す
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味噌作りには3ヶ月から1年という長期間を要します。この間に麹菌によって作られたプロテアーゼやアミラーゼといった酵素が、原料に含まれるタンパク質、デンプン、脂質を分解します。さらに麹と塩によって大豆などの主原料が分解され、発酵熟成が進みます。タンパク質はアミノ酸に変わることで味噌の旨みとなり、デンプンは麹の酵素作用によって糖化してブドウ糖が作られます。これをエサに酵母菌が増殖し、アルコール発酵を行います。
麹菌が作ったアミラーゼも、炭水化物を糖に分解することでブドウ糖やオリゴ糖を作り出します。こうして作られた糖によって乳酸菌が酸を作り出しやすい環境が出来上がります。
糖を原料に乳酸菌が活躍して、雑菌の繁殖を防ぐ
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乳酸菌は空気中や麹についていたものが自然に入り込みます。乳酸菌はアミノ酸や糖を分解することで乳酸を作り、味噌のpHを下げて酵母が活動しやすい環境に変え、雑菌の繁殖を防いでくれます。
味噌を塩だけで防腐するためには25%以上の塩分濃度が必要ですが、乳酸によって10~13%の塩分濃度でも防腐できるようになります。
また、乳酸発酵によって塩なれ(本来の塩分よりも塩辛さが弱く感じること)が改善され、乳酸によって発生した酸味が味にしまりを与えます。さらに蒸した大豆や麹特有の臭みが消え、味噌の色も綺麗に仕上げてくれます。
味噌に入り込む乳酸菌の種類
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味噌の醸造のときに入り込む乳酸菌には、四連球菌であるペディオコッカス・アシディラクティシとテトラジェノコッカス・ハロフィルスがあります。
このうち前者は麹の中で育ち、味噌を酸化させて味を変えてしまうため嫌われます。しかし、この菌は塩分に弱いため、麹の塩切り(長期保存のために麹に塩を混ぜる)によって繁殖を防ぐことができます。
一方、後者のハロフィルスは10%以上の塩分濃度にも耐えて生育するうえ、醸造の初期段階で繁殖して熟成を促すため有用な菌とされています。
醤油と乳酸菌の関係
醤油は大豆、小麦に塩と麹を加えて、乳酸菌と酵母によって発酵することで作られます。
麹が大豆と小麦を分解してアミノ酸と糖を作り出す
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大豆と小麦に含まれるタンパク質はアミノ酸に分解されることで醤油の旨みになります。
小麦に含まれるデンプンはブドウ糖に分解されて、醤油の甘みや香りとなります。
乳酸菌が糖から乳酸を作り出し発酵を進める
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仕込みから1~2ヶ月後には、乳酸菌によってブドウ糖が分解されて乳酸、酢酸、クエン酸が作られることで乳酸発酵が進み、さわやかな酸味がつき塩辛さをやわらげて味を引き締めます。乳酸発酵が十分でない醤油は「薄っぺら醤油」になると言われています。
乳酸発酵が進むほどに、諸味のpHが下がり酵母菌が働きやすい環境になります。乳酸菌は麹菌から酵母菌に発酵のバトンを繋ぐ大事な役割を果たしているのです。【醤油に入り込む乳酸菌】
乳酸菌は蔵の中に住みついている菌や空気中を飛散している菌が入り込む場合と、人工的に添加する場合があります。
昔ながらの伝統的なつくりを続けている蔵では、木桶や柱、天井に乳酸菌が住み着いて空気中を漂っています。これらが諸味の中に入って発酵することでその蔵ならではの味が作られるのです。
醤油に含まれる乳酸菌の種類
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醤油に含まれる乳酸菌もテトラジェノコッカス・ハロフィル(ラ)スです。塩に強い特性を持ち、性質が異なる多用な菌株が共存しています。
この中にはアスパラギン酸やヒスチジンなどのアミノ酸を分解したり、アルギニンをアンモニアとオルニチンに分解したりするものもあります。このような乳酸菌は醤油のアミノ酸組成を変化させて、味にも影響を与えます。この性質を利用して、特定のアミノ酸を分解する菌株を諸味に添加することで、アミノ酸の分解を操作することも可能です。
例えばアスパラギン酸を分解する菌株を添加すると、酸味成分であるアスパラギン酸が減って甘味成分であるアラニンが作られます。これによってマイルドな味わいの醤油に仕上がります。
醤油諸味から分離した乳酸菌Th221株
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味噌や醤油にはテトラジェノコッカス・ハロフィルスという乳酸菌が含まれていますが、その中でもキッコーマンが醤油諸味から分離したTh221株にはアレルギーを抑制する効果があることが分かっています。
正式名称はテトラジェノコッカス・ハロフィルス・KK221株といい、植物性乳酸菌らしい酸や塩分への強い耐性を持つのが特徴です。Th221株はキッコーマンがこれまで研究した240株に及ぶ乳酸菌の中でも、特にアレルギー改善に有効なサイトカイン「インターロイキン」を作り出す作用が高いことが確認されています。
サイトカインとは免疫細胞から分泌されるタンパク質で、免疫系の調整や細胞の分子や増殖の調整、感染防御、抗腫瘍作用など、様々な疾患の発症を抑制してくれます。
Th221株の通年性アレルギー性鼻炎に対する効果を調べる試験では、ボランティア45名を対象に、3つのグループに分けて、それぞれTh221株を全く含まない偽薬、Th221株を低用量含む錠剤、Th221株を高用量含む錠剤を8週間摂ってもらいました。
さらに被験者本人の自覚症状と医師の所見をスコア化しました。その結果、Th221株を高用量摂ったグループでは、自覚症状が改善されて、医師による鼻症状判定でもスコアが改善することが確認されました。
またアレルギー指標である血清総IgE量も、高用量摂ったグループでは低下しました。
乳酸菌をたくさん摂るための味噌、醤油の選び方
市販の味噌と醤油は過熱処理されている
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乳酸菌の力を利用して作られた味噌と醤油は毎日の食卓に欠かせない調味料ですが、せっかくなら生きた乳酸菌がたくさん摂れる商品を選びたいです。
そこで重要になるのが製造段階で行われる加熱処理の有無です。残念ながら市販されている味噌の大半は、酵母の過発酵による品質の変化やパッケージの膨張や破裂を防ぐために、出荷前に加熱処理をしています。
また、いわゆる「だし入り味噌」は酵母菌の出す酵素によってだし成分が分解されるのを防ぐために必ず加熱処理しています。
醤油の場合は「火入れ」という工程を入れることで、殺菌をして保存を高め、色や艶を整え、香ばしさを引き出します。発酵が抑えられることで品質が安定して生醤油よりも長持ちしますが、加熱することで諸味本来の香りや風味が失われてしまいます。
過熱処理によって乳酸菌は死滅してしまう
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加熱処理に関してパッケージへの表示義務もないため、一見すると加熱処理しているのかしていないのか判断することができません。
加熱処理することで熱に弱い乳酸菌だけでなく麹菌や酵母菌も死滅してしまいます。これではせっかくの発酵食品も効果はあまり期待できません。生きた乳酸菌を摂るなら加熱処理していないタイプを選びましょう。
生味噌や生醤油を選ぼう
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そこでいま注目されているのが製造段階で加熱処理を行わない「生味噌」「生醤油」です。鮮度を保つことが難しいため、これまでは市販品として一般小売店に並ぶことがなく、専門店でしか買うことができませんでした。
しかし近年になり大手醸造メーカーでは容器を工夫することで鮮度の問題を解決し、次々に「生」を謳った商品が製造販売され、スーパーでも気軽に買えるようになりました。
発酵食品本来の生きた菌と独特の風味は消費者の支持を獲得し、人気を呼んでいます。生醤油、生味噌は加熱処理したものとは風味も味も全く異なります。ぜひ生の味噌や醤油を普段の料理に活用して、生きた乳酸菌を摂りましょう。
味噌や醤油は加熱しすぎない
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せっかく生の味噌や醤油を使用しても、調理のときに加熱しすぎては乳酸菌が死んでしまいます。醤油はお刺身や豆腐、納豆にそのままかける使い方がお勧めです。
味噌はそのままとはなかなかいきません。煮物や汁物は具材が煮えて沸騰したら火を止めて最後に加えます。調味料を加える順番を「さしすせそ」と表現しますが、この「せ」は醤油、「そ」は味噌を意味します。
日本人は昔から味噌、醤油を最後に加えることを料理の常識としてきました。それは最初から加えると香りが飛ぶという理由ですが、麹菌、酵母菌、乳酸菌といった微生物を殺さないためでもあります。
味噌汁は「煮えばながおいしい」とよく言われますが、まさに理にかなった調理法なのです。最近では減塩が叫ばれるようになったこともあり、味噌汁を控えているという声を耳にすることがあります。
でもそれは間違いで、塩分量を控え目にしながらたくさんの栄養が摂れる味噌汁は理想的な食品です。毎朝一杯の味噌汁で乳酸菌も摂れるなら健康への効果もより期待できます。生の味噌と醤油を毎日の料理に、加熱しすぎずに効率的に生きた乳酸菌を摂りましょう。
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