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乳酸菌で発酵したお茶とは

お茶も発酵食品

乳酸菌で発酵させた食品と言えばヨーグルトやチーズといった乳製品、ぬか漬けやキムチなどの漬物類を思い浮かべます。お茶も発酵食品と聞くと意外に感じてしまいます。
確かに私たちが普段から親しんでいる緑茶は発酵させないお茶ですから、馴染みがないと感じるのも仕方ありません。

発酵度合いによって分けられるお茶の種類

とはいえ私たちの身近なところにも発酵させたお茶はあります。中国のウーロン茶やプーアル茶、イギリス人が大好きな紅茶がその代表格です。
お茶にはいくつか種類があり、発酵の度合いや方法によって以下の4種類に分けられます。

代表的なお茶 発酵度
不発酵茶(無発酵茶) 緑茶 全く発酵させない
半発酵茶 ウーロン茶 酵素による発酵を加熱して途中で止めている
完全発酵茶 紅茶 酵素によって完全に発酵
後発酵茶 プーアル茶 酵素ではなく乳酸菌などの微生物によって発酵

発酵させているお茶であっても、完全発酵茶と半発酵茶は酵素による発酵であるため酸化と呼び、微生物による発酵と区別しています。このように世界的に見るとお茶の多くは発酵食品です。

ところが日本では全く発酵させないフレッシュな緑茶が一般的であり、発酵させている日本茶を普段目にする機会はほとんどありません。
しかし、日本茶の歴史を辿ると中国のプーアル茶のような発酵させたお茶だったことが見えてきます。

日本茶のルーツはプーアル茶のような発酵茶だった

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もともと日本にはお茶の文化はありませんでした。

日本のお茶のルーツは平安時代初期まで遡り、比叡山の開祖である最澄ら遣唐使が伝えたと考えられています。
このとき持ち帰ったお茶は発酵していたと考えられていて、中国のプーアル茶をさらに濃縮したような味わいだったと言われています。

当時の日本で飲まれていたお茶は「団茶」と呼ばれ、プーアル茶のように茶葉にカビを付着させて長期間発酵させていました。水分を抜いて乾燥させているためカチカチに固くブロックのような形をしていました。本場のプーアル茶は丸い円盤のような塊で売られていますが、おそらく当時の日本でも同じようにして流通していたと考えられています。

ところが、濃厚で苦味の強い発酵茶は日本人の口に合わなかったらしく、やがて廃れていきます。発酵茶に代わって普及したのが、全く発酵させない今日私たちが飲んでいる緑茶でした。さっぱりとしていて旨みとほのかな甘さが感じられる緑茶は、塩分の強い郷土料理が多い日本で好まれたのです。

乳酸菌で発酵させる後発酵茶とは

烏龍茶や紅茶が酵素の力で発酵させているのに対して、後発酵茶は乳酸菌、酵母、バクテリアといった微生物の力で発酵させているのが特徴です。複数の微生物を利用して二段階発酵の手法で作られているお茶もあります。

発酵食品特有の独特の香りがある

よく熟成させているため、茶葉は発酵食品独特の芳醇な香りがしますが、人によってはカビ臭く感じることもあります。お茶を淹れると果実のような香りや土のような香りがします。この独特の香りは製造工程で増殖する好気性菌や嫌気性菌によるものです。
これらは茶葉の成分と相互に作用することを繰り返すことで、発酵が進み香りが増していきます。

世界的にも貴重な碁石茶と阿波茶

後発酵茶は、カビを付着させて発酵させた中国雲南省伝統のプーアル茶が最も有名です。日本で後発酵茶はほとんど生産されておらず、僅かに高知県の碁石茶、徳島県の阿波晩茶、富山県のバタバタ茶などがあるのみです。

その中でも乳酸発酵させたお茶は世界的にも数少なくとても貴重です。
碁石茶と阿波茶はそんな貴重な乳酸菌で発酵させたお茶の一つです。
味は独特の酸味があり好みが分かれますが、どちらも植物性の乳酸菌を豊富に含んでいるため、整腸作用などの健康効果が期待されています。
酸味のあるお茶が苦手な方は冷やして飲むことで、酸味が抑えられてさっぱりとして飲みやすくなります。

碁石茶

碁石茶の特徴

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碁石茶(ごいしちゃ)は高知県長岡郡大豊町特産の後発酵茶です。

・見た目
茶葉の見た目はほぼ黒色で四角い形をしています。仕上げ段階で莚(むしろ)に並べて天日干しにしますが、その見た目が黒い碁石を並べたように見えることからこの名前で呼ばれるようになりました。

・歴史
土佐藩の史料では400年以上前には生産されていたことが分かっていて、江戸時代の土佐藩では塩と交換するための貴重な交易品として出荷していましたが、地元ではほとんど飲まれていませんでした。

・製法
製法は茶葉を摘み取り蒸してから、プーアル茶のようにカビを付着させて一次発酵させ、乳酸菌によって二次発酵させる二段階発酵を行います。その後、2.5~4cmに切り、天日干しで乾燥させます。

乳酸菌で発酵させたお茶であることが知られるようになったのは1980年前後からであり、作っている方々も昔は乳酸発酵させていることに気づきませんでした。
それが独特の風味のお茶として知名度が向上したことで大学で研究され、乳酸菌が発酵に関わっていた事実が明らかになりました。やがて碁石茶は健康に良いお茶として注目されていきます。

・碁石茶が作られるようになった理由
碁石茶の味は少しの酸味とほんのりとした甘さがあり風味は独特です。なぜこのような独特の味わいを持つ碁石茶が作られるようになったのか。それはかつて瀬戸内地域では井戸水にたくさんの塩が含まれていて、普通のお茶との相性が悪かったためとされています。
このような塩分の強い水と相性が良かったのが酸味のある碁石茶であり、瀬戸内の沿岸部で好んで飲まれていたと言われています。また瀬戸内の島々では茶粥としても親しまれていました。

明治末期の最盛期には75t作られていた碁石茶も、昭和の後半に入り上水道が普及していくと、少しずつ普通の日本茶が飲まれるようになりました。碁石茶を生産する農家は減少し、一時はたった一軒の農家が生産するのみとなりました。
近年になり独特の酸味と風味を持つ碁石茶に再びスポットが当たると、幻のお茶として珍重されるようになり、少しずつ生産する農家も数を増やし、2010年現在では7軒の農家が生産しています。今日では高知県を代表する特産品として復活しました。

碁石茶の効果

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碁石茶にはヨーグルトの200倍もの乳酸菌が含まれていると言われていて、高い整腸効果が期待されています。生命力が強い植物性乳酸菌のため胃酸や胆汁酸に負けることなく生きて腸まで届けることができます。
東京農業大学や信州大学が共同で研究を行い、2005年からは農水省や高知大学などでも研究が進められています。これまでに血中の悪玉コレステロール値を下げる働き、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する働きがあることが、動物による実験で確認されています。
また発酵茶でありながら緑茶と同等の抗酸化作用があり、高脂肪症や動脈硬化などの改善する働きがあることも分かっています。

碁石茶の飲み方

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鍋かやかんでお湯を沸騰させて茶葉を加えて、火にかけて3分程煮出します。香りを引き出すためには沸かし立てのお湯で抽出するのがポイントです。
水出しでもおいしくいただけます。鍋に茶葉を加えて水を注いだら、2~3時間ほど抽出します。冷蔵庫で冷やすと酸味がやわらいでさっぱりとした味わいになります。分量はどちらも水2Lに茶葉3gが目安です。

阿波晩茶

阿波晩茶の特徴

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阿波晩茶(あわばんちゃ)は徳島県那賀郡那賀町と勝浦郡上勝町特産の後発酵茶です。阿波番茶と表記されることもありますが、一般的な「番茶」とは茶葉の種類も製法も異なるため、「晩茶」という表記が定着しました。
カビを付着させて一次発酵させている碁石茶とは異なり、阿波晩茶は乳酸菌だけで発酵させています。このようなお茶にはタイのミアンやミャンマーのラペソーなどがあります。

・製法
製法は完全に成長した茶葉を7月中旬以降に摘み取り、茹でて一度発酵を止めてからよく揉み込みます。その後、樽に漬け込んで7~15日程度乳酸発酵させてから天日で乾燥させます。

緑茶のように新芽を使わないのは、やわらかい新芽は発酵させた段階で溶けてしまうためで、樽で漬け込んでいる間に原料に付着した植物性乳酸菌が増殖して発酵が進みます。

・ルーツは不明
阿波晩茶の味は独特の酸味があり後味はさっぱりしています。このような珍しいお茶であるにも関わらず、上勝町には阿波番茶について書かれた文献が一冊もないそうで、「弘法大師が伝えた」「平氏の教えで生まれた」などいくつか説はありますが、はっきりとしたルーツは分かっていません。

・地元ではなじみの深いお茶
上勝町誌によると「大正元年に7421kg生産されたのがピークで以後は減少している」とあり、碁石茶と同じく生産が落ち込んだ時期がありました。
昭和の終わり頃から売れなくなったと言われています。2000年代に入ると阿波晩茶がテレビで取り上げられたことで知名度が上がり、需要が高まったことで生産量も増加していきます。近年では阿波番茶の健康効果が注目されるようになり、さまざまな研究が進められています。
碁石茶と異なり地元でもよく飲まれています。生産農家では販売用だけでなく自家用に1樽つける人もいるそうです。昔はどの家でも阿波晩茶が作られていて、余った茶葉は畑にまいていたと言われています。

阿波晩茶の効果

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生きて腸まで届く植物性乳酸菌が豊富に含まれているため高い整腸作用が期待できます。さらにこれまでの研究では抗アレルギー作用があることが分かっています。
徳島大学が行った研究では、アレルギーの症状を抑制するためには乳酸発酵させた晩茶の成分が有効であることが明らかになっていて、花粉症などのアレルギー症状を改善する効果が期待されています。
同大学薬学部の福井裕行特任教授は「皮膚や粘膜の症状に効く成分を含む食材と、晩茶を一緒に取ると効果が上がる」と言います。
乳酸菌のほかには抗酸化物質レゾルシノールが含まれています。この成分には血糖値の上昇を抑える効果があり糖尿病の予防に有効とされています。

阿波晩茶の飲み方

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急須に茶葉を一つまみ(3~5g)加えて、沸騰したお湯を注いで黄金色になるまで3分程度待ちます。酸味は強くなりますが濃い目のお茶が好みの方は5分ほど待ちます。
地元では良い水でないとおいしい晩茶はできないと言われていて、水道水で作るとカルキの影響か色が茶色になってしまい、おいしさも感じられなかったそうです。
今では急須で淹れるのが一般的ですが昔はヤカンで淹れるのが一般的でした。ほかにも近年になって普及した飲み方として水出しがあります。茶葉を水に一晩つけておくと出来上がります。

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